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​腰・足・ひざの代表的疾患

腰部椎間板ヘルニア

⒈腰部椎間板ヘルニア

(1)腰部椎間板ヘルニアとは?

腰部椎間板ヘルニアとは線維輪裂孔より髄核が突出あるいは脱出し、馬尾や神経根を圧迫する

ことによって症状が出現したものをいいます。

これを簡単に説明しますと、腰の骨と腰の骨の間には柔らかいクッション(椎間板)があります。

そのクッションの中には髄核といっていろいろな衝撃からクッションを守る働きをするものがあります。その髄核が長年の腰の使いすぎ(重いものを持つなど)や急な過剰の負荷によりクッションから飛び出し、飛び出した髄核が周りの腰の神経を圧迫することにより、腰から足にかけて痺れや感覚異常といったさまざまな症状を引き起こす疾患です。

(2)症状

人によって症状はさまざまですが、下肢症状(お尻から足先にかけての痺れ、痛み、感覚異常、筋力低下など)が主です。

(3)病院での治療

①治療の大半は保存的療法です。安静にしておくということですね。

②薬物治療としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、湿布などが処方されます。

③理学療法としては慢性期では温熱治療(ホットパック、マイクロウェーブなど)を使い、筋肉などの循環改善や筋弛緩を目的として行われます。

④これらの治療で改善が見られない場合、腰部硬膜外ブロック、仙骨裂孔ブロック、椎間関節ブロックなどの治療が行われます。

⑤最終的には手術療法で神経の圧迫を除去する方法もあります。特に神経圧迫による膀胱直腸障害を呈する例では早期手術による圧迫除去が必要になります。

(4)鍼灸での治療

鍼灸治療では西洋医学的な治療と、東洋医学的な治療に分けられます。

①西洋医学的鍼灸治療

鍼の鎮痛効果について、世界中でさまざまな研究がされています。

今現在特に言われている鎮痛効果の機序としては、エンドルフィン説とゲートコントロール説が挙げられます。エンドルフィンとはモルヒネ同様の作用(鎮痛作用)があり、鍼刺激によって体内で生産されることが分かってきました。ゲートコントロール説とは、太い神経(Aβ、触覚)を刺激することにより抑制介在ニューロンが促進され、痛みが抑えられるといった説です。鍼治療ではこの太い神経を刺激するため、鎮痛効果があるのではないかと言われていますが、全てを説明できる説ではないため、さらなる研究が必要となっています。

②東洋医学的治療

東洋医学的には腰痛は腎虚でなりやすいと言われています。

東洋医学では骨の症状や老化といった現象は腎の問題だと言われています。腎とは先天的な気と後天的な気を蓄える場所であり、その気が減っていくことで腎と関係深い骨、耳、膀胱、記憶などに関係する症状が発現すると言われています。治療としては腎虚に対して効果のあるツボを選穴し、鍼または灸を使って治療を行います。また、腎虚ではない腰痛ももちろんありますので、治療前の問診、検査が非常に大切になってきます。

座骨神経痛

⒉座骨神経痛

(1)座骨神経痛とは?

座骨神経痛とは、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの腰部疾患により神経が圧迫され、座骨神経に影響が出る場合と、座骨神経周辺の筋肉(特に臀部の梨状筋など)の異常によって坐骨神経が圧迫されることによって症状が出る二つのタイプが主にあります。

(2)症状

腰椎椎間板ヘルニアと症状は似ていますが、座骨神経痛ではその名の通り、座骨神経に沿って(お尻〜太ももの裏〜ふくらはぎ)症状が出現します。主に痺れや痛み、感覚異常といった症状です。

(3)病院での治療

治療はほぼ①腰椎椎間板ヘルニアと同じです。

座骨神経痛では特に臀部の筋緊張が関係していることが多いため、筋緊張緩和のための治療が行われることが多いです。

(4)鍼灸での治療

西洋医学的治療

治療の前に正確な病態把握をするために幾つかの検査を行います。腰の腰椎からきている症状なのか、

それともお尻の筋緊張からきているのかなど原因を特定し、問題のある筋や神経の改善を目的として鍼

を使って治療を行います。

②東洋医学的治療

座骨神経痛は東洋医学的には主に二つの診断に分けられます。一つ目は「肝」に関係するもの、二つ目は「腎」に関係するものです。

(a)肝に関係する座骨神経痛

「肝」とは、東洋医学では血液をコントロールしており、とても重要な役割を持つものです。

特に痺れが強い座骨神経痛の場合、この肝の働きが悪いことが多く、気血が体をスムーズに流れることができずに痺れが起きるといったタイプが多く見られます。この場合、肝の働きを元に戻してやって気血がスムーズに流れるようにしてあげることで症状の緩和が期待できます。

(b)腎に関係する座骨神経痛

「腎」とは、東洋医学では骨や骨髄をコントロールしています。そのため、骨の変形に関係する疾患の場合には腎の働きが悪いことによる腰痛が多く見られます。腎の働きが悪くなると、骨が枯れていき骨髄が虚していくため足が弱くなっていき、下肢の痺れなどの症状も発症してきます。​治療は主にこの腎の働きを改善することが根本的な治療となります。

脊柱管狭窄症

⒊脊柱管狭窄症

(1)脊柱管狭窄症とは?

脊柱管とは、脳からの神経が通っているトンネルのようなもののことです。このトンネルが様々な要因 (加齢、腰椎ヘルニアやすべり症の後遺症など)で狭くなり、中の神経を圧迫して症状が出現するものを脊柱管狭窄症といいます。高齢者に圧倒的に多い疾患です。

(2)症状

代表的な症状は間歇性跛行(神経性・血管性)といわれるものです。続けて歩くことができず、

数十メートル歩くと立ち止まって休憩しないと再び歩き出すことができないといった症状です。

その他、腰痛、臀部痛、下肢痛、痺れといった様々な症状が出現します。

(3)病院での治療

基本は保存療法となります。

理学療法にはストレッチや姿勢訓練、温熱療法といったものがあります。

薬物療法では主に非ステロイド抗炎症薬、筋弛緩剤、ビタミン剤(B12、E)などがあります。

また、神経ブロックでは硬膜外ブロックや神経根ブロックがあります。

会陰部の異常感覚や膀胱直腸障害、重度の間歇性跛行などがあれば手術療法を考慮します。

​術式の基本は神経除圧術と脊椎固定術があります。

(4)鍼灸による治療

①西洋医学的治療

西洋医学的な鍼灸治療の内容は腰部椎間板ヘルニアや座骨神経痛と同じで、原因のある部位の筋緊張緩和や血流促進、またはエンドルフィンなどの鎮痛物質の分泌を目的として鍼治療を行います。脊柱管狭窄症は高齢者にとても多く、鍼灸治療が効果を出しやすい疾患であると思います。鍼灸治療を受けることによって手術しないといけないと言われていた症状が、手術を受けなくても日常生活では困らなくなくなったという患者さんもたくさんおられます。

②東洋医学的治療

⒈腰椎椎間板ヘルニア、⒉座骨神経痛の治療と基本的には同様です。

ぎっくり腰

⒋ぎっくり腰

(1)ぎっくり腰とは?

ぎっくり腰はいわゆる急性の腰痛です。原因はいろいろありますが、主に脊椎の捻挫や筋肉の肉離れであると言われています。急に重い荷物を抱えた・くしゃみした瞬間・後ろを振り返ったら・ベッドから起き上がろうとしたら、といった時に発症することがあるようです。

(2)症状

急な腰痛です。症状がひどい場合、立ち上がったり歩く動作が困難なことがあります。

(3)病院での治療

基本的に保存療法です。

RICEという基本処置方法がありますので、覚えておくと緊急時に役に立ちます。

R(Rest/安静)I(Ice/冷却) C(Compression/圧迫) E(Elevation/挙上)

受傷直後(受傷から72時間)は患部は炎症を起こしているため、冷やして炎症を抑えることが重要です。ぎっくり腰は安静にしていると2〜3日で痛みが治まってくることが多いです。痛みがなかなか引かない場合は病院に行き、医師の診断を受けましょう。ひどい場合はヘルニアなどの疾患を伴う場合もあります。

(4)鍼灸による治療

東洋医学的に、ぎっくり腰(急性の腰痛)は肝の異常が最も多いと言われています。肝は筋肉をコントロールしており、筋肉に栄養(血)が十分にない場合、急な腰痛を引き起こすことがあります。治療は肝の異常を改善することを一番の目的として行い、腰の反応部位にはりまたはお灸を施します。

変形性膝関節症

5.変形性膝関節症(膝OA)

(1)変形性膝関節症とは?

長年の膝の使いすぎ(over use)や老化などさまざまな要因によって膝の軟骨が減り、膝を曲げた時に痛みが出る疾患です。特に中高年の肥満女性がなりやすいといわれています。

(2)症状

初期の頃は動作の開始時(特に立ち上がる時や歩き始めなど)に痛みが出ます。

特に膝の内側に痛みが出ることが多いようです。(特にO脚の人)

だんだんひどくなってくると、正座などの完全屈曲位姿勢ができなくなります。

(3)病院での治療

基本は保存療法です。

体重減量、前太もも(大腿四頭筋)の筋力強化、膝装具や足底板などによる治療が挙げられます。

対症療法として消炎鎮痛剤の投与や、高分子ヒアルロン酸・ステロイド薬などの関節内注射も症状によっては行われます。痛みが取れずに水が溜まって腫れている場合(水腫)などには手術療法が考慮されます。術式は主に関節鏡視下のデブリドマンや高位脛骨骨切り術が行われます。また、高齢者には人工関節置換術が行われる場合もあります。

(4)鍼灸による治療

①西洋医学的治療

鍼灸治療には鎮痛効果があるため痛みを取り除くことはできますが、膝の姿勢矯正や太ももの筋力

強化などを併用して行うことにより、再発を防いだり痛みをさらに減らすことができます。

当院長はスポーツ現場での外傷・障害リハビリにも対応できる資格(日本体育協会公認アスレティックトレーナー)を保持しているため、鍼灸治療に加えてご家庭でできるリハビリ体操などの指導も合わせて行います。

②東洋医学的治療

膝関節の治療は、膝のみの治療では症状を取り除くことは難しく、体全体状態を把握して全体治療を行うことが重要です。膝関節痛の東洋医学的な原因は様々ですが、胃腸からくるもの、肝の異常からくるもの、腎の異常からくるものなどが代表的な原因として挙げられます。

(a)胃腸からくる膝痛

これは東洋医学的には「脾」の働きが弱ることによって体内に余分な水分が溜まっていき、そのいらない水分が湿となって関節にたまることで関節が腫脹して痛みを引き起こす病態です。

この余分な水分を取り除き、脾の働きを改善することによって膝の痛みが引いていきます。

(b)肝の異常からくる膝痛

「肝」は血を作ったり貯蔵したりする働きがあり、その働きが弱くなることで血不足が起こり、関節がうずくことがあります。ふくらはぎが夜中につったり、イライラすることが多いのがこのタイプです。

(c)腎の異常からくる膝痛

中年以後(特に肥満体型)に多いのがこのタイプである。肥満やふくらはぎのむくみが合併している場合が多い。

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